遺言の実際…添え手

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言作成時の添え手付…実際には



遺言の実際…添え手


自筆証書遺言は自分で書くのです。では筆は持ったものの、その筆を誰かに操られたらどうなるのでしょうか。誰かの手に支えられていたら、つまり添え手に頼ったらどうなるのでしょうか。

実際の裁判所の判断をみてみましょう。

■民法が自筆証書遺言を認めた理由は,人の筆跡にはそれぞれ特徴があり,筆跡鑑定等によって比較的容易に遺言者が作成したものであるか否かを判断することができるため,後日の紛争を防止し,遺言者の真意を確認することができるからである。 これに対し,第三者が手を添えた場合には,一般的には遺言者の筆跡の特徴が失われることが多く,またそのため後日遺言書が当該遺言者によって作成されたものであるか否かをめぐる紛争が生じやすく,かつ,その場合にその判断が困難となるうえ,第三者の意思が加わるおそれが生ずるものであるから,原則として第三者が手を添えることによってなされた自筆証書遺言は無効というべきである。しかしながら,他方,遺言は死期が近づいてはじめてなされることも多いという実情からすると,右原則をあまりに厳格に貫き,第三者が手を添えることによってなされた自筆証書遺言はすべて無効であるとすることは,死者の最終意思を尊重するという遺言制度自体の趣旨に反する結果を生むことにもなりかねず,したがって,遺言がその要件を具備しているか否かを判断する場合においては,法が遺言に一定の要式性を要求している趣旨と,右遺言制度の基本趣旨との調和の上に立って判断するのが妥当である(東京地判・昭和59年6月18日)

■「自書」を要件とする法の趣旨に照らすと,病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は,@遺言者が証書作成時に自書能力を有し,A他人の添え手が,単に始筆若しくは改行にあたり,若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くことにとどまるか,又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり,かつB添え手が右のような態様のものにとどまること,すなわち,添え手をした他人の意思が介入した形跡がないことが,筆跡のうえで判定できる場合には「自書」の要件を充たすものとして,有効であると解するのが相当である(最判・昭和62年10月8日)

■本件遺言は,他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言であるが,本件遺言書作成当時,意思能力(遺言能力)に欠けるところはなく,自書能力を有し,かつ,単に字の間配りや行間を整えるなど筆記を容易にするため他人から添え手にょる支えを借りて自ら自書したものであり,運筆に他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえでも判定できるから,本件遺言は,自書の要件を充たすものとして,有効であるというべきである(東京高判・平成5年9月14日)

■無筆の者が,他人の書いた原稿を写した遺言書が有効とされた事例。(秋田家大曲支審・昭和37年6月13日)
「……が昭和29年3月17日に死亡することにより同女の相続分について更に相続が開始したのであるが,申立人……本人尋問の結果によれば,次郎は申立人らの代理人弁護士……の助言により,昭和28年7月28日同弁護士の轡いた原稿を……に見せ,その同意を得て同女にこれを写させて甲第1号証(遺言状)を作成させ,同女の死亡後秋田家庭裁判所大曲支部で検認を受けたことが認められる。相手方らは,……は無筆であり,上記遺言書は……の自筆によるものではないから無効であると主張するが,仮に……が無筆であったとしても,片仮名で書いた原稿をまねてこれを写す程度のことは必ずしも不可能ではないし,又他に何人かが右甲第1号証を偽造したことを確証するに足る証拠はないのであるから相手方らの上記主張は採用できない。又右甲第1号証の日附の訂正について,民法第968条第2項の形式に履んでいないことを相手方ら主張のとおりであるが,その訂正前の日附を見ても,それは……の死亡前であるから,遺言書全体の効力に影響を及ぼさない。以上認定の事実により成立を認められる甲第1号証によれば,……がその全財産を申立人次郎に遺贈した事実が明らかであるから,これにより同申立人は……の……の遺産に対する相続分3分の1を承継したものである。(もちろん,上記遺言は,……以外の申立人ら及び相手方らの遺留分を侵害するものであるが,他の相続人らから減殺謂求権が行使されないかぎり,そのまま効力を有する。)」


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