遺言の実際…遺留分減殺

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遺留分減殺請求…実際には



遺言の実際…遺留分減殺


遺言書での争いには遺留分減殺請求があります。その遺留分減殺請求について。

実際の裁判所の判断をみてみましょう。

■被相続人が共同相続人の1人に対し全財産を相続させる旨の遺言をし,他の共同相続人が受遺者が全遺産を独り占めにすることを肯んじず,自己の分け前を要求して遺産分割協讃書への押印を拒否したときは,遺留分減殺請求の行使があったといえる。(京都地判・昭和60年4月30日)
「そこで,以上確定の事実のもとで原告の主張の当否を判断するに,原告は,被告が亡…の遺産として本件不動産が存在すること及び他にめぼしい財産がないことを知っており,そのうえで,被告が何らの精算をすることなく本件不動産を一人占めにすることを肯んじえないために,自己の分け前を要求して被告の求める遺産分割協議書への押印を拒否したものであるから,右の態度表明は,亡…の遺言に対する減殺請求と評価するに十分である。なぜならば,遺留分の減殺請求は法律行為であるが,ある言動をもって減殺請求権の行使とみるか否かは意思表示における表示行為の解釈の問題であるところ,遺留分の制度は兄弟姉妹以外の法定相続人の相続分を被相続人の窓意的な財産処分から最低限度のものとして保謎することにあるから,原告が自分の分け前を要求し,被告が遺産を独占することに応諾しない旨を表明することは,右の遺留分の権利を行使する意思の表示と解釈するのが相当だからである。」

■遺留分権利者が,減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても,被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは,その無効を信じていたため遺留分減殺請求権を行使しなかったことにもっともと認められる特段の事情のない限り,右贈与が減殺することができるものであることを知っていたと推認するのが相当(最判・昭和57年11月12日)
「民法1042条にいう「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは,贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきであるから,遺留分権利者が,減殺すべき贈与の無効を信じて訴訟上抗争しているような場合は,贈与の事実を知っただけで直ちに減殺できる贈与があったことまでを知っていたものと断定することはできないというべきである。しかしながら,民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した趣旨に鑑みれば,遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば,それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないから,被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては,無効の主張について,一応,事実上及び法律上の根拠があって,遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り,右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当というべきである」

■遺留分権利者が減殺の対象となり得る贈与の無効を訴訟上主張している場合においても,無効を信じて抗争しているような場合はともかく,その無効主張がまったく根拠のない単なるいいがかりにすぎないときは,「減殺すべき贈与」を知っていたものと認めるのが相当(東京高判・昭和51年5月26日)
「民法第1042条にいう「減殺すべき贈与」があったことを知った時とは,単に贈与の事実を知った時でなく,それが減殺をなし得べきことを知った時を指すと解すべきであるから,遺留分権利者となり得る者が右贈与の無効なることを信じ訴訟上抗争しているような場合は,単に贈与を知っていたとしても,それだけでは「減殺すべき贈与」があったことを知っていたものとは直ちに断定できない(大判昭和13年2月26日民集17巻275頁参照)が,訴訟上無効を主張さえすれば時効の進行を始めないことになると,民法が特別の短期時効を法定した趣旨にも反する結果となるから,無効の主張がなされている場合においても,全くなんらの根拠もない単なる言いがかりに過ぎないことが明らかであるような場合には「減殺すべき贈与」を知っていたものと認めるのが相当であり,無効の主張により時効の進行の開始を阻止し得ないものというべきである。」

■遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は,民法1042条の消滅時効に服さない。(最判)
「民法1031条所定の遺留分減殺請求権は形成権であって,その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し,受贈者又は受適者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものであることは,当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和40年付)第1084号同41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁,最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁),したがって,遺留分減殺請求に関する消滅時効について特別の定めをした同法1042条にいう「減殺の請求権」は,右の形成権である減殺請求権そのものを指し,右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効に服せしめることとしたものではない,と解するのが相当である。」

●【630】昭和29年5月6日民事甲968号民事局長電報回答「相続人に非ざる者に全財産を遺贈する旨の遺言書(裁判所検認済)を添付した遺贈による不動産所有権移転の登記申請があった場合,右遺贈が相続人の遺留分を侵すことは明らかであるが,登記官吏にはその実質的審査権がないから,右の申請を受理しなければならない。」



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